拝啓、

人は、複雑で優秀な頭脳の、1割ほどしか使えていない。
残りの大部分を使うことが出来たとしたら
記憶できる容量も飛躍的に伸びるのだろうか。


私にとって大切な思い出が、相手方も心に留めていてくれているかは誰にもわからないこと。
でも往々にして、自分が覚えていることは、当事者には記憶しておいて欲しいと願ってしまうのが、自分勝手な人間の性だと思う。


ただ稀に、無条件で、無償で、ともすれば一方通行の想いを捧げ続けることもできる。


私もまた、その類の人間で。


大切だと固執すればするほど
むしろ
「覚えてて良いよ」
という許しが欲しい。
そんな、浮遊感。


何があったのか、と聞かれれば、何もなかったと答えるしかない。
それくらい、あなたとの出会いは「私にとっての」出会いでしかなかったのだから。

オレンジの革球を追いかけ始めたのも
機関銃のように話すようになったのも
相手の揚げ足を取るのが上手くなったのも
目を、きゅっと細めて笑うようになったのも
全部、全部。
今の私の基礎は、あなたに出会ってから超特急で積み上げられてきたもの。

迷うことなく、振り返ることなく。



追いかけているようで
追いつきたくないような

目に映して欲しいようで
決して存在を知られたくないような


相反する感情が、私の頭をごちゃごちゃにして、冷静な思考能力を奪って、気づいた時には、無意識に追いかけていた。


いつしか恋慕は、憧れに変わり
憧れは敬いに、敬いは焦がれに変わった。
それは、あれは。
確かに恋だった。
恋い焦がれて、追いつきたくて、隣に並びたくて。
そう。
それは確かに…。


拝啓、
「あなた」に出会った、「私」へ
もしも、戻れるのならば、一言だけ。
”あなたに出会えてよかった”


2015.11.04
(その偶然を、感謝と呼ぼう)

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