毒林檎をくださいな

恵まれてるね
言われる度に吐きそうで

像がね、怖かったんだ。
彼が発病して
わたしは、何年生の頃だったんだろう
ともかくおかしくなって
入院して
親が、泣いていて
彼はやつれにやつれて
病院の無気力な感じや
あの、どこにも逃げ場がないような閉塞感

お友達にも言わないで
その約束を、守って
守って
でもやっぱりストレスは溜まって
偏頭痛になって
人の言葉に敏感になって
でも言えなくて
言っちゃダメで
隠すことで
恥ずかしいことで

周りから持たれている私の像も
守らなくちゃいけなくて
八つ当たりや、弱いものいじめ
そんなのはご法度
勉強もスポーツも、課外活動も
何も障害なんてないかのように
こなさなくちゃいけない
わたしの家は、模範的な家で
たくさん習い事をさせてもらって
勉強もまぁまぁできて
走らせれば速く
ピアノも弾いて
敬語も使える
恵まれた、素晴らしい家庭環境
それを、守ってきたの。

でも、
恵まれてるね、羨ましい、あなたの家とは違うのよ
吐きたくなるほど、吐くほど苦しくて
いつでも好きな時に代わってあげるのに
どの口が、グズグズに甘ったるいことを言ってるのって、つねりたくて
思うがままに、人を拒絶する


思春期と入れ替わりに彼のボディタッチが激しくなって
それが嫌で嫌で
家の中なのにストーカーされるようにつけまわされるのが怖くて怖くて
病気だから仕方ないのよ
そんなことはわかってる
それが異常だと、分からないことが病気なんだから。
分かっていて、なお
なんで私のお兄ちゃんが、って
そんなことばかり考えて
それにも嫌気がさして

気づけば、私は。
人に触れられることが
驚くほどに、怖くなった
好きな人に触れられても
最初にくるのは戦慄なの
気持ち悪さが
違和感が
無理をしていると
焦燥感ばかりが先行する

恵まれてるね、って
それでも言うの?
だから当たり前なの?
わたしのこの立ち位置は当たり前に存在するものだって?

馬鹿を、言わないで。
死にたいほどに
殺したいほどに
嫌いで、可哀想で、情けないの。
そして困ったことに、それでも希望を持っちゃうの。
最初に狂ったのは、誰だったの。


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